ヴァイオリンの音階(スケール)練習は、すべての演奏技術の基礎となる最も重要な
練習です。音階を正しく練習することで、音程感覚、運指、運弓、ポジション移動
など、あらゆる技術が総合的に向上します。
多くの学習者が、音階練習を退屈だと感じています。しかし、音階こそが上達への
最短コースなのです。
音階は、すべての曲の基礎となる音の並びです。音階が正確に弾けなければ、
どんな曲も正確には弾けません。逆に、音階を美しく弾ける人は、どんな曲でも
美しく弾けるのです。
「練習したつもり」と「実際に練習した」の違い
ただし、ここで重要な問題があります。
カール・フレッシュのスケールシステムなど、優れた音階教本を毎日練習している
はずなのに、音程が改善しない、と感じる人は多くいます。
その理由は、単に音階の楽譜をなぞるだけの練習では、真の効果は得られない
からです。
これを受験勉強で例えると分かりやすくなります。
・毎日、過去問を4時間解いている
・答え合わせはするが、なぜその答えになるかは分からない
・結果として、同じような問題でも正解率は上がらない
これでは、どれだけ時間をかけても合格できません。
音階練習も全く同じです。ヴァイオリンの正しい音程の取り方を学ばずに、
スケールシステムだけを弾いていても、効果的な練習にはならないのです。
重要なのは練習の順序です。
計算のやり方を習ってから、計算を正しく行う練習をします。
文字の書き方を習ってから、文字を美しく書く練習をします。
これと同じように、音程の取り方を習ってから、音階やエチュードや曲を練習
しなければなりません。
ヴァイオリンの音程の取り方を知らないまま音階を練習しても、間違った音程が
身についてしまうだけです。まず「どうやって正しい音程を見つけるのか」を学び、
その上で音階練習に取り組むべきです。
ヴァイオリンには驚くべき特性があります。正しい音程で指を押さえると、
楽器全体が豊かに響き出すのです。
この響きこそが、正しい音程の証です。指の位置がわずかでもずれると、響きが
減少します。
響きが最大になる位置を探すこと――これがヴァイオリンの音程を取るということ
なのです。
多くの学習者がチューナーに頼って練習していますが、これが上達しない最大の
理由です。
聴き手は“響き”を聞いて美しさを判断しているからです。チューナーは単純な
周波数しか測ることができません。
コンサートホールで聴いたヴァイオリンの美しい響きと、その同じ演奏を録音で
再生した音が、明らかに異なることを誰もが経験しています。その違いこそが、
チューナーでは捉えられない“響き”なのです。
ピアノでの練習も同様に効果的ではありません。ヴァイオリンとピアノでは音律が
異なり、ピアノの「平均律」では完全に調和する音程関係を持っていないからです。
ピアノの伴奏やピアノとの合奏でヴァイオリンを演奏する際には、ヴァイオリンの
音程を基軸として、その上でヴァイオリンがピアノの音程に多少なりとも寄り添う
ようにすることで、ようやくピアノとのアンサンブルが成立するのです。そうした
点でも、まず基軸となるヴァイオリンの音程の取り方を習得する必要があるのです。
ヴァイオリン本来の音程の取り方を学ぶと、何が起こるのでしょうか。
まず、音程が驚くほど安定します。信号機の色を見分けるように、正しい音程が
「見える」ようになります。
その変化は音程だけにとどまりません。正しい響きを聴き取るためには、
弓の圧力、速度、角度が適切でなければなりません。
つまり、ヴァイオリンの響きを学ぶことで、運指も運弓も、自ずと洗練されていくの
です。
ヴァイオリンの音階練習には、歴史的に優れた教本がいくつもあります。
日本で最も広く使われている音階教本ですが、実際には『フリマリー/バイオリン
音階教本』を小野アンナが校訂したもので、初心者から上級者まで対応しています。
20世紀を代表するヴァイオリン教師フレッシュによる、機能和声の観点から最も
体系的な音階教本です。すべての調性を網羅し、様々な運指パターンを学べます。
ただし、分量が多く、どこを重点的に練習すべきかを知らないと、効果的な学習には
なりません。
ベルギーの巨匠イザイがウォーミングアップに用いていた素材を、息子さんが弟子達
に聴取し、それをシゲティが編んだ音階教本です。そのため「イザイ」と聞いた時点
で高度で難解な教本と思われがちですが、ヴァイオリン演奏の根幹を成す基礎要素
こそが編まれている音階教本です。
現代のヴァイオリン教育の第一人者フィッシャーによる教本です。正しい運指と音程
の取り方について、詳細な解説がある点においては従来の音階教本と一線を画する
とともに、その練習方法について様々なパターンが詳細に記載されています。
重音の音階練習に特化した教本です。2つの音を同時に正確に弾いた際に聞かれる
[差音]を3度・6度・10度ですべての調で漏れなく明記することで、正確な音程
で重音が演奏できるようにすることを目指した音階教本です。
音階練習では、次の点に注意します。
各音が正しい音程で弾けているか、ヴァイオリンの響きを聴いて確認します。
響きが最大になる位置を探します。
これこそが、音階練習を始める前に、まず習得されるべき演奏技術であるとともに、
これこそが、音階練習に留まらずに、ヴァイオリン演奏を行うすべての基礎である
という点で、この手順の番号は「0」です。
これは、ただ単に伝統的に確立された運指法を学ぶだけの問題ではありません。
・音階練習における、上昇音形と下降音形での運指のやり方の違い
・スケールとアルペジオにおける、運指方法と指の保持方法の違い
・ポジション移動における、途中音(経過音)と運指の方法の習得
こうしたヴァイオリンならではの運指の基本原則を常に厳守しながら練習することで
音階練習がヴァイオリンの演奏技術の安定と向上に寄与するのです。
ヴァイオリンの音階練習は、スラーなどの練習を除いて、常にdétaché
(弓を区切って奏でる奏法)を基本としています。
この理由は、求める音程が求めるタイミングで正確に確定されるためには、音を
途切れさせることで、その瞬間の「響き」による音程確認が可能になるからです。
このdétachéによる「響き」の確定訓練により、以下の効果が得られます。
・求める「響き」に向かって音を区切ることで、タイミング感とリズム感の向上
・各音を区切って奏でることで、その間の運弓の均一性と安定性の向上
一見すると「音程」と「リズム」は別のものであるように捉えられがちです。
しかし、détachéで練習し続けることで、重要な気づきが起こります。
求める「響き」で音程が確定されるタイミングと、運弓による発音のタイミングが
完全に一致するようになるのです。つまり、「正しいタイミング」で弾くことで、
自動的に「正しい音程」が「響き」で確定されるようになるということです。
この状態が確立されると:
・どのような複雑な音形でも「常に正しい音程」が「正確に判別できる」だけでなく
・「常に正しい音程」で「確実に弾ける」ようになるのです。
あたかも「タイミング」が「音程」を自動的に導くかのように、複雑な音形でも、
常に正確な音程が確定されるようになります。
音階練習は、正しい方法で行わなければ効果がありません。間違った方法で何時間
練習しても、上達しないどころか、悪い癖がついてしまいます。
そして、音階練習だけではなくヴァイオリン演奏についても常に求められ続ける
「響き」で音程を確定するという本来のヴァイオリンの音程の取り方を指導され、
学び続けることこそが、何よりもまず求められます。
それは、ヴァイオリン演奏の根幹を成し、すべての技術の出発点となるものであり、
同時にヴァイオリンで音楽を奏でる際の基礎全体でもあるのです。
しかし、音楽大学の乱立や愛好者の急増、そしてネットによる情報の増大により、
こうしたヴァイオリン本来の音程の取り方を学べる機会は、今では貴重なものと
なっています。
イワモト ヴァイオリン教室では、小野アンナ、カール・フレッシュなどの伝統的な
教材に加えて、イザイ、サイモン・フィッシャーなど、生徒さんそれぞれの状況に
最適と考えられる音階教本を用いながら、ヴァイオリン演奏の根幹を成し、
すべての技術の出発点となるヴァイオリンの音程の取り方を、子どもから大人まで、
趣味で習う方から専門家を目指す方まで、すべての方にお伝えしています。
よろしければ、こちらもご覧ください。
東京都狛江市にある美しい音色・正しい音程・伝統の奏法重視の
「イワモト ヴァイオリン教室」
住所(狛江教室):〒201-0003 東京都狛江市和泉本町2-31-4メイプルビル301
営業時間 :10:30~23:30(日・月・水・木・土)
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