ヴァイオリンの弦の寿命

ヴァイオリンの弦の寿命には明確な基準があります

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 ヴァイオリンの弦は消耗品です。どんなに高価な弦でも、使い続けるうちに必ず

 劣化します。弦の状態は音色と音程に直接影響するため、適切な時期に交換する

 ことが、美しい音で演奏するための重要な条件です。

 

 そして何より重要なのは、弦の寿命は正しい演奏技術の習得のためには、

 必ず考慮されなければならないということです。

 

弦の寿命はどれくらいか

 弦の寿命は、演奏頻度や演奏環境によって大きく異なります。

 

 毎日2~3時間練習するプロやアマチュア上級者の場合、3~6か月程度で

 交換するのが一般的です。

 

 そして現在、多くの奏者は以下のような基準で弦を交換しています。

 

 交換時期の判断基準(一般的な方法)

 ・定期的に交換する(1か月ごと、3か月ごとなど)

 ・演奏会や発表会の前に交換する

 ・巻き線が解れてきたら交換する

 ・切れたら交換する

 音による劣化のサイン

 ・音色が劣化してくる(明るく伸びやかな音が、くすんだ音色で響きや音量も減少)

 ・音程が不安定になる(正しい位置で押さえても定まらない、特に高いポジション)

 ・反応が鈍くなる  (弓で擦弦しても音の鳴り始めが遅くなる)

 ・弱音が弾き難くなる(繊細な表現ができにくくなる)

 ・調弦が不安定になる(演奏中に音程が狂いやすくなり、頻繁な調弦が必要になる)

 外見による変化

 ・巻き線の表面がざらついている

 ・巻き線が解れている

 ・色が変色している(金属弦での錆、銀の巻き線の黒い錆など)

 

 しかし、ヴァイオリンの弦には、弦の寿命を明確に判定できる、より確実な方法が

 あります。さらに、この判定方法はヴァイオリンの演奏技術習得に大きく影響する

 のです。

 

弦の寿命――その明確な判断基準

 『ヴァイオリンの正しい調弦方法(バイオリンの正しいチューニング)

 で述べたように

 ヴァイオリンには4本の弦があり、低い方から順に

 G線(ソ)

 D線(レ)

 A線(ラ)

 E線(ミ)に調弦します。

ソレラミの譜例

 これらの弦は、隣り合う弦が完全5度の音程関係になっています。

 

 そして、完全5度で調弦されたヴァイオリンにおいては、各指での運指は完全5度で

 真横に平行移動することになります。これが正しい音程で演奏する際の運指の基本

 となります。

運指1 2 3 4が4弦5度移動

 しかし、弦を使い続けると物理的な変化が起こります。

 G線

 D線

 A線では、運指による汚れや汗による錆で、

 ナット(上駒)側が重くなり、弦が正しく鳴る位置がナット側にズレます。

 E線では、運指による摩擦で弦が摩耗し、相対的に

 ブリッジ(駒)側が重くなり、弦が正しく鳴る位置がブリッジ側にズレます。

 

 このズレが生じると、完全5度による「真横の平行移動」という運指の基本動作に

 乱れが生じてしまいます。この乱れが顕著になった時点で弦を交換しないと、

 演奏技術の習得と正しい音程での演奏の両方に悪影響が生じます。

 

弦の寿命――その確実な判断方法

 完全5度による真横の平行移動が崩れているかどうかを確実に判断する方法が

 あります。

 

 それは、自然ハーモニクス(弦の特定の位置に指を軽く触れるだけで鳴らす奏法)を

 活用することです。

 

 ただし、この判断を正確に行うためには、前提条件があります。

 『距離も決めずに100m競争の練習をする? あなたのヴァイオリンが

 きちんと響かない決定的な理由』でも書いたように、

 ヴァイオリンの弦長は、フルサイズでは明確な数値として規定され、

 分数楽器でも明確な比率によって規定されます。

 したがって、弦の劣化を判定する前に、まず駒が正確な位置に立っていることを

 確認し、全ての弦の弦長が正しくなっている必要があります。

 この前提が満たされていない状態で判定を行うと、弦の劣化ではなく駒の位置の

 ズレを検出してしまうことになります。

 

具体的な判断手順

 弦長が正しくなるように駒を正確な場所に立てた上で、

 4の指(小指)であれば第11ポジション

 3の指(薬指)であれば第12ポジションで自然ハーモニクスを弾きます。

 

なぜハイポジションで確認するのか

 ヴァイオリンは、ハイポジションになるほど正確な音程を取るための「幅」が狭く

 なります。第1ポジションでは多少指の位置がズレても許容されますが、

 第11〜12ポジションではわずかなズレでも音程の違いがはっきりと分かります。

 この性質を利用することで、弦の劣化によって「正しく鳴るポイント」がズレている

 ことを、より明確に確認できます。

 さらに、自然ハーモニクスは指を軽く触れるだけで音を出すため、正確な位置で

 なければ全く鳴らないか、鳴っても非常に不明瞭な音になります。

 つまり、「ハイポジション」と「自然ハーモニクス」を組み合わせることで、

 指を真横に平行移動させたときに「鳴る・鳴らない」の違いがはっきりと現れます。

 これにより、鳴るポイントのズレを明確に判別でき、弦の劣化具合を正確にチェック

 できるのです。

 

 G線→D線→A線→E線の順に弾いた場合、寿命の来ていない弦では、

 ハーモニクスが鳴る位置は完全に真横に並びます。

自然ハーモニクスで奏でる弦の位置を順次表示するGIF

 しかし弦が劣化すると

 G線

 D線

 A線 ハーモニクスが鳴る位置がナット側にズレ

G線D線A線でハーモニクスが鳴るポイントがナット側にズレるGIF

 E線 ハーモニクスが鳴る位置がブリッジ側にズレ

E線でハーモニクスが鳴るポイントがブリッジ側にズレるGIF

 この位置のズレが確認できたら、その弦は寿命が来ていると判定され、

 交換の対象となります。

 

 なお、巻き線のないE線は特に早期に劣化する傾向があります。

 運指側の摩耗が直接影響し、また弦が細いために摩耗の影響を

 大きく受けるためです。

 

弦の劣化が正しい音程習得に与える影響

 ヴァイオリンの左指は1mmでもズレると音程が変わってしまいます。

 そして既に述べたように、明確な数値や比率によって規定される弦長において、

 弦が劣化して鳴る位置がズレていると、正しい位置に指を置いても正確な音程が

 得られません。これは技術習得の進行を大きく阻害します。

 

 さらに、完全5度で調弦される4本の弦において、運指の位置がそれぞれ異なって

 しまうと、基本的な運指の平行移動が不可能になり、ヴァイオリンの音程の取り方の

 基盤を歪めることになります。 

 

 したがって、弦の劣化判定と交換は、単なる音色や外見の問題ではなく、

 正しいヴァイオリン技術習得のための必須条件なのです。

 

弦交換の注意点

 弦の交換は、既述の判断基準に基づいて個別に行われるため、必ずしも4本同時の

 交換になるとは限りません。

 複数の弦を交換する場合でも、駒が倒れて魂柱がズレてしまうことを防ぐために、

 必ず1本ずつ行わなければなりません。

 

正しい音程を得るための環境作り

 弦の寿命判定は、単に音色や外見で判断されるべきものではなく、

 ヴァイオリン本来の音程習得と直結した判定基準が存在します。

 

 弦長を含めた弦の状態を正しく認識し、維持・管理することは、

 正しいヴァイオリンの音程の取り方にも直結する重要な問題です。

 

 イワモト ヴァイオリン教室では、弦の状態の判定も含めて、

 正しい音程で美しい音を出すための総合的な指導を行っています。

 

 子どもから大人まで、趣味で習う方から専門家を目指す方、そして指導者の方も

 含めてすべての方にこうしたヴァイオリン本来の奏法と、それに関わる知識や技術を

 丁寧にお伝えしています。

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基礎技術ガイド

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